今日は「てんかんとスポーツ」についてのお話です。
指導者のみなさん、もしチームの選手、または新しく入団してくれた子の保護者から
「この子、てんかん発作(ほっさ)があるんですけどサッカーして大丈夫ですか?」
と聞かれたらなんて答えますか??
……私は言葉がでません。
頭の中で「発作が安定しているなら、オーバーワークにならない程度に……」という言葉が浮かびますが自信がなくて言葉がでません。
さらに、もしチームの子供がてんかん発作で目の前で倒れたらどのような対応をすればよいか?分かりますか?
病院で仕事をしていれば、てんかん発作に遭遇する事は時々ありました。
発作が治まるまで周囲の安全を確保して、安静にする…その程度しか考えられえません。
しかし、てんかん発作は若い世代のスポーツの現場では充分に起こる可能性のある事です。
「てんかん・てんかん発作」について知識を深め、適切な対応が取れるように準備しておきましょう。
「てんかん」とは?
人間の身体は活動にすることで非常に弱い電気を発しています。
心電図や脳波はその微弱な電気を読み取って目で見れるように変換しているのです。
なかでも脳の細胞は、細胞どうしが活発に電気信号を送って情報を伝えています。
この
脳の電気活動が活発になり過ぎた状態が「てんかん発作」です。
「てんかん」は、この「てんかん発作」をくりかえし起こすことを特徴とする病気です。
てんかん発作とは?
てんかん発作は
脳の1部分で起こる「部分発作」と
脳全体で起こる「全般発作」に分けられます。
部分発作
過剰な脳の興奮が脳の一部分で起こる発作です。
意識がはっきりしている発作(単純部分発作)と、意識を失う発作(複雑部分発作)があります。
部分発作の過剰な興奮が脳全体に広がって、全般発作になることもあります(二次性全般化発作)。
単純部分発作の症状
脳が過剰な興奮を起こしている場所によって様々な症状がでます。
身体が勝手に動く
手足や顔に力が入って抜けない、けいれんする、くねるような動きをする等。
視覚や聴覚の異常
光が見える、小さな虫が飛びまわっているように見える、声が聞こえる等。
自律神経の異常
頭痛や吐き気を催す等
複雑部分発作の症状
意識が徐々に遠いていくので意識を失って倒れることは少ないです。
急に動きを止めて、ボーっとする発作(意識減損発作)や、フラフラと歩き回ったり、口をモグモグ動かすなどの症状がみられます。
二次性全般化発作の症状
発作が始まる前に単純部分発作または複雑部分発作の症状が
「前兆」としてみられます。
その後、身体が硬くなる強い発作(強直 間代発作
きょうちょくかんたいほっさ)に進展します。
全般発作の症状
脳全体が興奮し過ぎることで起こる発作です。
突然意識を失い、大きな唸り声を上げて倒れます。
口を固く食いしばり、呼吸が止まり、手足を伸ばした格好で全身を硬くした状態が
数秒〜数十秒間持続します。
その後手足をガクガクと身体を震わせる
けいれんが起こります。 一般には
数十秒で終わりますが時に1分以上続くこともあります。
発作後は、30分〜1時間くらいの眠りに移行することがありますが、その後は普段の生活に戻ります。
発作直後は意識がもうろうとしてるので、物にぶつかったり、熱い物に触ってやけどをするなど、発作そのものよりも、もうろう状態での事故も少なくないので注意が必要です。
てんかんの重責発作(じゅうせきほっさ)
てんかん発作は30秒~1分程度でおさまりますが、発作繰り返されて意識を失っている時間が長くなると生命に危険が及ぶ可能性があります。
5分以上発作が続く場合はてんかん重積状態と判断して救急車を呼ぶ必要があります。
もちろん、発作で倒れた際に頭を打って血が出ている場合などは速やかに救急車を呼ぶ必要があります。
てんかん発作の症状についてはこのサイトが動画で説明されているのが分かりやすいです。
てんかんInfo http://www.tenkan.info/commentary_movie/
てんかん発作を誘発する原因
てんかん発作の
80%は偶発的に、
20%は誘発されて、1%は反射的に起こると言われています。
誘発の原因の代表的なものとして
「疲労」「ストレス」「睡眠不足」があります。
誘発によるてんかん発作を減らす為には早寝早起きで生活のリズムを整えて、体調管理をしっかりとすることが重要です。
てんかんの原因
てんかんには大きく分けて2種類のてんかんがあります。
「特発性てんかん」
検査をしても以上がみつからない、原不明のてんかん。てんかん全体の6割。
「症候性てんかん」
強く頭をぶつけて脳に傷がついた、脳卒中、脳しゅよう、アルツハイマー病などの脳の障害が原因で起こるてんかん。てんかん全体の4割。
発症の時期
どの年齢層でも発症しますが、子供と高齢者に多い傾向があります。
特に
3歳以下の発症が多く、80%は18歳以前に発病すると言われています。 脳梗塞やアルツハイマー病などが原因によって高齢者のてんかんも多くなっていると言われています。
てんかんの経過
小児期に発病し数年に一度程度の発作で成人になれば完治してしまう良性の特発性てんかんがある一方、頻繁に発作をくりかえし様々な脳機能障害が進行する難治の症候性てんかんもあります。
しかし全体としては、2/3から3/4の患者さんは抗てんかん薬の服用で発作は止まり、大半の患者さんは支障なく通常の社会生活をおくることができます。
引用:厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_epilepsy.html
以上がてんかんという病気についての概要です。
簡単にまとめると
脳の過剰な電気活動が引き起こす「てんかん発作」、それをくりかえす病気が「てんかん」 若い人と高齢者に多く、治りにくいものもあるけど、多くの人が薬でコントロールできて普通の社会生活を送っている。
この「てんかん」という病気、スポーツの指導者にとって気になるのは、てんかんとスポーツの関係です。
スポーツがどのような影響を与えるのか、発作が起こった時の対応などをみていきましょう。
てんかんとスポーツ
昔は運動による疲労やストレスがてんかん発作を誘発するといって、運動を制限している事もありました。
頻繁にてんかん発作が起こっていて、てんかんが
コントロールされていない状況では運動は禁止されますが、運動による
適度な緊張感や、
楽しんで運動する事が発作を抑制する事が知られ、最近では運動を昔ほど制限していません。
少し古い研究になりますが、Gotze氏は
脳波の経時的記録から、運動時はかえって発作の閾値が上昇する。つまり運動時は発作が起こりにくくなる
Gotze W: Effect of physical exercise on seizure threshold.
Lennox氏は運動について
「発作は放心状態,休養している時,眠気のある時におきやすく,筋肉運動,ことに知的関心を伴う作業中には最もおきにくい」
Lennox :Science and seizres.
このようにすべての運動を制限するのではなく、適度な運動を奨励しています。
引用:てんかん児の学校生活上の取扱いについて 小野元子
てんかんで注意が必要な種目
水泳、スキー、自転車、モータースポーツ、ボルダリングなど
[gallery link="file" size="full" ids="2682,2684,2683"]
これらのスポーツは、競技中にてんかんが起こると水没や転倒、落下などの命の危険にさらされる事があるので勧められてはいません。
しかし、学校水泳などは学校の先生にてんかんの事をしっかりと伝えて、監視の行き届く環境を整えて参加している子もたくさんいます。
スポーツの参加の基準に関しては愛媛大学長尾先生の「てんかん児の生活指導表」が分かりやすいです。
【てんかん児の生活指導表】
この
生活指導表はてんかん児が安全にすべての活動に参加することを考えて,そのために最低限配慮すべき目安を示したものです。
例えば集団で行うチームのサッカーだと
○倒れるような発作が 1/月~1/2年
○倒れないが動きが調整できなくなるような発作が1回/日~1回/月
○意識はしっかりしていて身体を支えきれる発作が1回/月以上
てんかん発作の頻度がこれ以下であり、なおかつ主治医の許可が得られれば安全に配慮して、保護者が監視できる状態から参加可能という判断になります。
出典:てんかん児の生活指導表 http://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/13918.pdf
※スポーツへの参加は保護者や本人が判断せず、必ず医療機関で相談を受けてから参加してください。
スポーツでの注意点
まず最も重要な事は、その子に
てんかんがあると言う事を指導者が知っている事です。
保護者は必ず指導者に病気の事を隠さずに伝えておく、その約束が守られている事が重要です。
その子にてんかんがあると知った上で指導者や保護者が注意していかなければならない事は、
てんかん発作を誘発する原因を減らす事です。
てんかん発作を誘発する因子は
「ストレス」「疲労」「睡眠不足」です。
○規則正しい生活で、運動の当日は特に睡眠不足の状態で参加しないように心がける。
○運動が過負荷にならないように配慮する。
○その子の近くで大きな声を出さない。
○大きな大会など子供が緊張しそうな場面では、スタメンではなく途中出場から徐々に慣らしていくなど起用方法に配慮する。
○合宿や遠征など泊りでの参加には、睡眠不足にならないように注意し、薬の飲み忘れがないかチェックする。
過度に擁護するような態度をとる必要はないですが、発作を誘発しないよう誘発の3つの原因に配慮する必要があります。
強い光にで発作が誘発されるなど、それぞれの特徴もあるので指導者と保護者はしっかりと情報共有をする事が重要です。
もし運動中に発作が起こったら
てんかん発作で人が倒れる所を見たら、はじめての人なら必ず気が動転して何をしていいのか分からなくなります。
なによりもまずは落ち着く事が重要です。
けいれんが体の一部にとどまり、全身に拡がらないときは、周囲の安全に気をつけて、そのまま様子を見ます。
全身にけいれんが起きた場合でも、けいれんは1分~数分で発作はおさまり、その後20分以内に意識が回復することが多いので、穏やかに呼吸をしていれば、そのまま様子を見ても大丈夫ですが、その日に運動を続ける事は避けましょう。
保護者がいない時はその間に連絡をとって迎えに来てもらいましょう。
もし、けいれんが5分-10分以上の長時間にわたって止まらないときや意識が戻らないうちに再びけいれんが起きる場合は救急車を呼ぶか、病院へ連れて行きましょう。
けいれん時の具体的な対応
○発作の時は、周囲に危険なものがないか確認し、けいれんによって怪我をする事を防ぎましょう。
○ けいれんの最中は名前を呼んだり、体を押さえたり揺さぶったりせず、けいれんが治まるのを待ちましょう。
○発作の時に患者さんは、強く口を噛みしめる事があります。舌を噛む事が心配になりますが無理にクチに手を入れて開くのはやめましょう。
クチの中に食べ物があっても、呼吸をしていれば無理に取る必要はありません。
○発作が起こった時の、情報を覚えておきましょう
いつ?どこで?きっかけは?どれぐらいの時間?どのような身体の動きをしたのか?
これは後で病院を受診する時に、どのような発作だったかを判断する重要な情報になります。
その情報は的確に保護者に伝えましょう。
○ 周りの子供たちへきちんと伝えましょう。
てんかん発作を見た子供たちは驚いて、いろんな印象を持ちます。
教育の為の大切な機会です。
その子が練習に戻ってきてくれた時に、チームメイトの病気の事を理解し気使える仲間になれるよう、てんかんという病気について子供たちにきちんと説明しましょう。
以上、てんかんとスポーツについてまとめました。
てんかん児のスポーツ指導に限らず、こども達に安全にスポーツをしてもらうには保護者との情報交換が非常に重要です。
てんかんとうまく共存してオリンピック選手になったスポーツ選手もいます。
知識がない事で、てんかんの子供たちに必要以上の制限がかかることのないよう、知識を持って子供達と接する事ができればいいなと思っています。
この記事を読んで「てんかんがあるんだけどサッカーして大丈夫ですか?」
その疑問と不安が少しでも解消できたら嬉しいです。
※スポーツへの参加は指導者や保護者だけで判断せず、必ず医療機関で相談して下さい
参考記事
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/adhd
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/autism-spectrum
参考HP:てんかんInfo
http://www.tenkan.info/about/
おすすめの本
]]>