サッカーグッズに関する話 サッカーボール編 「メロディーメイト」
「メロディーメイト」という名のボールをご存知でしょうか?30年以上前の商品です。画像を検索しても見つけられなかったほど、古い商品なので知らない方が多いと思います。
当時、このボールは広島のボールメーカー「モルテン」が教材・レクリエーション用として発売していました。
公園や広場でボールを蹴る、家族や小学校低学年を対象としたこの商品は、人工皮革の4号ボールの中に小さな円筒型のICメカが差し込んであり、キックの衝撃で音楽が流れます。
それまで、鈴入りのボールはたくさん販売されていましたが、このボールは軽いショックを与えると30秒間音楽が鳴り続け、キックする度に8種類の音楽を奏でることができる、その当時としては画期的なボールでした。
子どもたちがサッカーを楽しむきっかけになると期待され、モルテンが自信を持って発売しましたが、市場の反応はいまひとつでした。
発売から間もなくして、「メロディーメイト」は生産中止となりました。
気づかれる事もなく、ひっそりと姿を消したメロディーメイト。しかし、その商品が生産中止になった事を誰よりも悲しむ人がいました。
当時、千葉県立盲学校の教員をしていた、霜田幸宏先生はメロディーメイトの生産が中止になった事を知ると、モルテンと直接掛け合い、子どもたちに手紙を書かせました。
「同情を買うんじゃない、あのボールが君たちにどれだけ必要かを伝えろ」と。
霜田先生が子どもたちとサッカーをはじめた理由。その当時テレビで大人気だった「キャプテン翼」を聴いていた子どもから「サッカーのシュートってどうやってやるの?」と聞かれたことでした。
考えるより、やらせてみる。霜田先生はまず、子どもたちにボールを蹴らせてみようと考えました。集まったのは最初に質問をした子を含めて、4人でした。
はじめは、まっすぐ蹴ることも難しく、2人でボールを蹴れるようになるにはすごく時間が必要でした。しかし、校庭には元気な子どもたちの声が響き渡り、徐々に仲間が増え「ペガサス」と名付けられたチームは11人になりました。
本格的に活動をはじめたペガサスに、近くのスポーツショップから使ってみてくれないかと届けられたのが「メロディーメイト」でした。
運命的な出会い。それまでの鈴入りのボールはボールが止まると音が鳴りやむが、このボールは止まっても音が鳴り続けるので、子どもたちの道しるべとなりました。
子どもたちは、上手くなれば当然試合がしたいと思うようになります。しかし、どんなにかけあっても視覚障害者のチームと試合をしてくれるチームはなかなか現れません。
やっと、対戦相手がみつかった時には10年の時間が過ぎていました。
ペガサスの10年の思いを込めた試合の結果は0対24で完敗。でも、霜田先生も生徒たちも全力で試合ができた事ですがすがしい気持ちでした。
この時対してくれた相手は2カ月かけて、ペガサスと対戦する為に小さなコートで練習を積んで試合に臨んでくれたそうです。
それ以来、このチームとの定期戦が夏と冬に開催され、開始から2年ペガサスが始めて得点した時のスコアーは1対2でした。
この10年間のチームの歴史には、モルテンの計らいによって安価で提供されていた「メロディーメイト」がかかせません。
霜田先生は、子どもたちが成長しペガサスを離れていく時、はなむけとしてこの「メロディーメイト」を渡たすそうです。
参考文献:
心のゴールにシュート!―千葉盲学校寄宿舎サッカーチーム「ペガサス」の挑戦
サッカーMmno物語 著者 伊藤武彦 2000,12,25 ベースボールマガジン社
物を作る人も、人を育てる人も情熱を持っているからこんな素敵な話が生まれるんでしょうね。
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