疲労回復にストレッチは本当に効果があるのか?

運動前の準備体操(ウォーミングアップ)、運動後の整理体操(クールダウン)として一般的に行われるストレッチ ストレッチは競技のパフォーマンスを向上し、怪我を予防すると考えられていた。 しかし、この10年ほどの科学的研究では目的によってはストレッチの効果は僅かであるという報告が増えているのが実際です。   疲労の蓄積をわずかでも減らす(リカバリー)の為に私も普段から子供たちに自己管理として 「練習のあと、試合の後はしっかりストレッチをして自己管理をすること」 と教えています。 しかし、このリカバリーにおいてもストレッチが特別効果があるという報告はほとんどないのが現在の研究の状況です。 果たして本当にストレッチはリカバリーに効果があるのでしょうか※注意:リカバリーにおけるストレッチの科学的研究結果と私見を述べています、ストレッチには柔軟性の改善など様々な効果があります。

ストレッチングの種類

リカバリーにおけるストレッチの効果の説明の前にストレッチの種類を簡単に説明します。 ストレッチには様々な種類がありますが、 ここでは自分の体重や、他者の力を借りてゆっくりと伸ばす「パッシブストレッチ」と 自分で動かして伸ばす「アクティブストレッチ」の大きくわけて2つの分類あることを説明します。  

パッシブストレッチ

自分の体重を利用したり、誰かの力を借りて行うストレッチをパッシブストレッチと呼びます。

【一般的なストレッチ(スタティックストレッチ)】

関節を大きく拡げて筋肉が伸びた状態で止める、一般的にイメージされるストレッチ法を 「スタティックストレッチ(静的ストレッチ)」と呼びます。 筋肉の粘りを軽減して、関節の動く範囲を拡げる効果があり、柔軟性の改善、傷害予防に有効だと言われています。 パッシブストレッチにはスタティクストレッチ以外に、関節を一定の速度で繰り返し誰かに動かしてもらうサイクリック・ストレッチングがあります。  

アクティブストレッチ

アクティブストレッチは自分で体を動かしながら筋肉を伸ばすストレッチです。 ラジオ体操やサッカーのブラジル体操のような動きをイメージすると分かりやすいと思います。  

ダイナミックストレッチ

ダイナミックストレッチで最も有名なのはサッカーのブラジル体操ではないでしょうか? ブラジル体操のように、関節の曲げ伸ばしなどの運動を行うことで筋や腱を引き伸ばしたり、実際のスポーツあるいは運動に似た動きを取り入れることで、そのスポーツに合わせた体の動きを向上させる目的で行われるのがダイナミックストレッチです。   https://youtu.be/FNiByjnOJDI 同じような動きをしていても体がブレてしまうとあまり効果が得られません。 腕や足が大きく動かせるようにしっかりと軸足、体幹が安定していることが効果を高める重要なポイントです。  

バリスティックストレッチ

バリスティックストレッチも同じく自分で体を動かすストレッチですが、ダイナミックストレッチとの違いは反動を利用する事です。 体の重みを利用して前屈で脚の裏側(ハムストリングス)を伸ばしたり、体重をかけてアキレス腱を伸ばすような動きがバリスティックストレッチです。 筋肉が瞬間的に強く引き伸ばされるので、体が温まっていない状態で行うと傷害を引き起こす可能性があるともいわれています。   ストレッチにはその他にも、 PNFストレッチや筋肉を冷やしてから伸ばすクライオストレッチなど様々な種類があり、より高い効果を求めてストレッチは日々進化しています。  

体を柔らかくするには効果があるストレッチ

ストレッチのリカバリー(疲労回復)に対する効果を説明する前に、ストレッチが柔軟性や筋力にどのような影響を与えるかを確認しましょう。   柔軟性を高める目的で行われるストレッチの効果は科学的にも立証されています。 ではなぜストレッチを継続するすと体は柔らかくなるのでしょう?   筋肉は1本1本の細かな繊維の集合体 その繊維の束を包んでいるのが筋膜(筋内膜、筋周膜、筋外膜)で、筋膜は弾性コラーゲン繊維という柔らかい組織でできており、スタティクストレッチ(ゆっくり伸ばすストレッチ)によって効果的に伸ばすことができます。 筋肉を伸ばすには神経の活動も重要 急激に筋肉が伸ばされると、筋肉が切れてしまわないように反射的に筋肉が縮みます。 ストレッチを継続して行うと、筋肉が引き伸ばされるときに起こる神経の興奮が抑制され関節の動く範囲が拡がっていくと言われています。   これらの筋肉に対する生理学的な効果により、ストレッチを継続的に行うことは柔軟性を高め関節の動く範囲を拡げてくれます。 傷害を予防するためには関節動く範囲が十分に確保されていることが重要です、つまりストレッチを継続的に行うことはスポーツにおける傷害を防ぐための重要な方法であると言えます。  

ストレッチが筋力に及ぼす影響

筋力 ストレッチ パフォーマンス ストレッチは運動前に傷害を予防し、パフォーマンスを改善させる効果があると言われてきました。 しかし、最近の研究では運動前に行うストレッチは筋力を発揮することを低下させパフォーマンスにマイナスの影響があると言われています。 報告によって筋力の低下については様々な結果がありますが、筋力低下が起こるという報告が多く、その効果はストレッチング終了後45分間ほど持続するようです。  
文献 年代 ストレッチの種類 結果
Kokkonen 1998年 スタティック 膝伸展7.3%減 膝屈曲8.1%減
Nelson and Kokkonen 2001年 バリスティック 膝伸展7.5%減 膝屈曲5.6%減
Tricoli and paulo 2002年 スタティック 最大筋力13.8%減
Garrison他 2002年 スタティック 変化なし
Behm 2006年 スタティック 6.5%減
  これらの報告からストレッチを実施した直後は筋力が低下する可能性が高いと考えられています。 しかし、継続的にストレッチをすることは筋力が増大するという報告が多数みられます。 つまり、現在の研究の結果からストレッチは運動直前に実施することは推奨されないが、日常的にトレーニングとして取り入れる価値は十分にあると考えられます。  

リカバリーにおけるストレッチングの効果

ストレッチの種類、ストレッチの柔軟性に対する効果、運動前のストレッチの影響について説明してきましたが、ではストレッチは運動後のリカバリーに本当に効果があるのでしょうか?   結論から言うと、現在の研究結果からはストレッチのみでは運動後の疲労回復にあまり効果は認められないと考えられています。   運動後の筋力回復、疲労困憊に至るまでの時間、筋肉の痛み、連続する試合間の疲労回復について、ストレッチと温・冷交代浴、休息(椅子に座る、横になる)など様々なリカバリーとの比較が検討されています。 しかし、ストレッチのみのリカバリーでは他の方法に比べると改善効果が弱いか、認められないといった報告が多いのが現状です。   つまり、ストレッチは容易にできるので、これまではリカバリーの方法の核として考えられていたが、ストレッチ単独ではリカバリー効果は弱く、他のリカバリーの方法と組み合わせて考えていく必要があると言われています。   以上、ストレッチの基本的な知識とリカバリーにおけるストレッチの効果について説明してきました。 リカバリーの方法は基本となる「栄養」と「睡眠」、その他にも「マッサージ」「温・冷浴」「コンプレッションウェアー」など様々な方法があります。   ストレッチに関しては単独ではリカバリーの効果が弱いという報告でしたが、リカバリーにおいて「これだけで充分」という方法はありません。   例えば、運動後の興奮状態にある体を、ストレッチしながらの会話で穏やかに沈めていく そうすることで自律神経を調整し「質の良い睡眠」をとることができるのであれば、ストレッチはリカバリーに効果があると言えるかもしれません。   体の回復はリカバリーの様々な方法それぞれが少しづつ効果を発揮して、相乗効果でより速い回復へと導いてくれます。 少しでも疲労の蓄積を減らし、よいパフォーマンスができるように自分にあったリカバリーの方法を自分の体と向き合って、対話をしながらみつける必要があると思います。   指導者、保護者は選手の体調の変化、精神的なストレスの状況などを敏感に感じ取る為に日ごろからコミュニケーションを十分にとって、必要なリカバリーの方法を選択し、オーバートレーニングを予防できるように心がられるといいですね。   参考書籍   ]]>

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