「オーバートレーニング症候群」聞きなじみのない言葉かもしれません
昨年の8月に日本代表のゴールキーパーの権田選手がオーバートレーニング症候群と診断され話題になりましたが、スポーツの指導現場では耳にしてもまだまだ一般的には聞きなれない名前かもしれません。
今日はオーバートレーニング症候群について説明し、子供のスポーツで注意すべき過負荷について考えたいと思います。
オーバートレーニング症候群とは?
オーバートレーニング症候群とは、
過剰なトレーニングのストレスにより慢性疲労に陥り、パフォーマンスが低下して、短期間では回復しなくなった状態のことを言います。
ここで言う過剰なトレーニングのストレスとは、身体的な負荷だけでなく
心のストレスも含まれます。
オーバートレーニングになる原因
1 |
大きすぎるトレーニング負荷. |
2 |
急激なトレーニング負荷の増大. |
3 |
過密な試合スケジュール. |
4 |
不十分な休養,睡眠不足. |
5 |
栄養の不足. |
6 |
仕事,勉強,日常生活での過剰なストレス. |
7 |
カゼなど病気の回復期の不適切なトレーニグ |
引用:オーバートレーニングの概念と臨床像.臨床スポーツ医学
指導者、保護者からのプレッシャーや、「勝たなければならない」という義務感
スポーツをする事に対しての直接的なストレスも大きく影響すると考えられます。
オーバートレーニングの特徴
オーバートレーニング症候群の特徴は以下のようなものが挙げられます。
1 |
持久的なスポーツに起こりやすい |
2 |
疲労感,倦怠感,咽頭痛といった特徴的ではない症状 |
3 |
身体的所見は正常. |
4 |
検査値は正常 |
5 |
不安,抑うつといった心理的要因が優位 |
引用:オーバートレーニング症候群 白山正人 体力科学(1996)
もう少し簡単な言葉でオーバートレーニング症候群の症状を表現すると
疲れやすくなる
運動後に疲れていても眠れない・眠りが浅い。
食欲不振・体重が減っていく。
朝起きた時の心拍数が早い(安静時+10回/分) |
このような、慢性的な疲労感などの症状でスポーツのパフォーマンスが落ちてしまう
しかし、体のどこかにこれが問題という決定的な異常が認められないのが特徴です。
その為、オーバートレーニング症候群の判断は難しく、可能性のある病気などを調べても最終的に問題が見つからないが、上記のような症状が見られ
それに加え、心理的な検査などの結果も踏まえて「オーバートレーニング症候群」と慎重に判断されます。
オーバートレーニング症候群の程度
オーバートレーニング症候群の症状は、以下のような症状である程度大きく分類されます。
1 |
軽症:日常生活での症状は全くなく,ジョギング程度ではなんでもないが,スピードが上がるとついていけない |
2 |
中等症:日常生活での症状も多少あり,ジョギング程度でもややつらい. |
3 |
重症:日常生活での症状も強く,ジョギング程度でもつらくほとんど走れない.身体症状と共に精神症状も見られる. |
引用:オーバートレーニングの概念と臨床像.臨床スポーツ医学
ただの疲労の蓄積とは違う
オーバートレーニング症候群の特徴を見てきましたが、身体的な疲労だけではない事が分かったのではないでしょうか?
オーバートレーニング症候群には心理的な問題も大きく影響します。
責任感が強く、一生懸命頑張ってきた選手ほどこのオーバートレーニング症候群になりやすいとも言われています。
ストイックに目標に向かって頑張ってきたが、結果がでない。
周囲からの期待やプレッシャーに応じようとさらに努力を続け、心も身体もとことんまで追いこんでしまう。
「OOでなければならない」という思いが強いそんな選手は注意が必要です。
オーバートレーニング症候群の心理的特徴
オーバートレーニング症候群の判定に有効だと言われている、
心理検査 POMS(ProfileofMood
States)
検査自体は専門家がする必要がありますが、オーバートレーニング症候群の状態ではこのPOMSに特徴的な結果が出やすいそうです。
下の図のように、調子のよい時は「活動性」が高く、その他の心理的要素は低いのに対し、オーバートレーンング症候群では「活動性」が低く、「抑うつ」「疲労」などのスコアが高くなります。
疲労の回復にも積極性は重要
疲労を回復する為の最大の方法は「睡眠」です。
しかし、心のバランスが崩れてくると自律神経が大きく関係する睡眠はバランスを崩しやすくなります。
表現は悪いですが「野球バカ」や「サッカー馬鹿」になってしまうと、上手くいかなかった時に逃げ道がなくなってしまいます。
心の安定を保つためにも、積極的にいろんな事に挑戦し頭の中から「スポーツ」を切り離す時間を取ることも重要だと思います。
オーバートレーニングに似た言葉
スポーツの用語の中にはオーバートレーニング症候群とよく似た言葉がたくさんあります。
オーバーロードの原則(過負荷の原則)
現在の能力以上のトレーニング負荷をかけないと競技力が向上しないという原則。
強い負荷のトレーニングの後に、休息をとるとヒトは今までのちから以上に回復します。
この「超回復」を有効に利用できるようなプランでトレーニングすることが、よ効果的に強くする方法です。
しかし、その休息の期間が短すぎると疲労によりパフォーマンスが低下していきます。
オーバーユース(使い過ぎ・Over Use)
スポーツ障害の原因となる、体の1部分に負担がかかり過ぎる事。
野球肘やテニス肘、
腰椎分離症、
オスグッドシュラッター病、シーバー病などはオーバーユースにより体の一部分に負担がかかり過ぎることが原因となって起こるスポーツ障害です。
オーバートレーニング症候群で指導者や保護者注意すべきことは?
すべてのスポーツ障害に当てはまることですが、オーバートレーニング症候群も
「オーバートレーニング症候群になる前に
予防する」
それが最良の治療法です。
その為には、日ごろから選手とコミュニケーションをとり、コンディションをチェックしておかなければいけません。
特にオーバートレーニング症候群では、一生懸命でストイックな選手がなりやすい傾向にあります。
よい意味で「サボり癖のある選手」よりも指導者が信頼をして全てを任てしまうような選手は、気づいた時にはオーバートレーニング症候群の症状が出てしまっている事もあるかもしれません。
一生懸命頑張ってる選手が「弱音を吐ける」ような環境を上手く作ってあげる。
「練習をしなければならない」という強迫的な考えから解放し、「休む」ことの重要性を理解できるようにサポートする必要があると思います。
オーバートレーニング症候群を予防する為にチェックすること
オーバートレーニングに少しでも早く気づく為に、選手を観察するチェックポイントは
以下のようなものが挙げられます。
どれも主観的で判断が難しいですが、体重や脈拍は数値化されるので目安としては分かりやすいと思います。
・無理なく良好なパフォーマンスが発揮されている。
・パフォーマンスが安定している。
・特別な苦痛や症状がない。
・疲労しても回復がはやい。
・トレーニングに対して意欲がある。
・体重:トレーニング前後の差および経時的な変化。
・脈拍:疲労が蓄積してくると起床時脈拍は増加し、トレーニング後の回復が遅くなる。
・体温:疲労が重なってくると上昇する傾向がある.脈拍と共に起床時に測るのがよい。 |
環境にも注意が必要
ジュニアのスポーツは保護者の影響も強く、チームの練習以外にも自主トレーニングなどが課せられている事があると思います。
チームの練習以外に他のスクールや地域の選抜、習い事に週末の試合
それに加えて、自主トレーニングとなるとオーバーワーク、身体も心もスポーツから離れる時間がありません。
自主トレーニングは「上手くなる為にはすごく重要な事です」
実際に親と一緒にスポーツに取り組んでいる家庭の子は、伸びて行くスピードがそうでない子に比べて早いのも事実です。
しかし、そのような選手は
親からのプレッシャー、勝負のかかった試合、選ばれる立場での試合、試合の結果が、その子1人に圧し掛かるように感じる環境などでプレーを続けることもあるでしょう。
成長期の子供にとっては「やりがい」も充分ありますが、ストレスも強いです。
指導者や保護者は過密なスケジュールをうまく調整するなど環境に配慮して
「思いきって休む」「全部が完ぺきでなくてもOK」という雰囲気を感じられるようにする必要があるでしょう。
プロ選手たちのオーバートレーニング症候群
FC東京の権田選手はオーバートレーニング症候群により昨年の8月から半年間の休養をしていました。
憶測にすぎませんんが、日本代表としての重圧や、権田選手の熱心な性格がサッカーに集中し過ぎるあまりに招いたのかもしれません。
私のような平凡な人間からすれば、権田選手は「スーパースター」ですが、それぞれのステージで大きな喜びと達成感とともに、苦しみがあるのでしょう。
権田選手は本田圭祐選手が経営するSVホルンに期限付きで移籍することが決まりました。
本田選手からは「楽しんで、頑張って」と声をかけられたそうです
権田は「楽しむというのはサッカーに対してなかなか持てなかった感情なので。全力で一つのことに取り組むことで楽しむというのが出てくると思います」と笑顔で語った。
引用:デイリースポーツ
どのステージでも「スポーツを楽しむ」環境を作ることが、オーバートレーニング症候群を予防する最良の方法なんだと思います。
新天地で権田選手が笑顔でサッカーをされることを心から願います。
まとめ
以上、オーバートレーニング症候群について説明してきました。
・オーバートレーニング症候群は身体だけでなく心のストレスも影響する。
・オーバートレーニング症候群は疲れが取れにくい、睡眠のリズムが狂う、食欲不振など症状は様々
・オーバートレーニング症候群が重症化すると、ジョギングすら難しくなる事がある。
・オーバートレーニング症候群は心理検査(POMS)で特徴的な結果が出る事がある
・指導者・保護者の過度なプレッシャーがオーバートレーニング症候群の原因になる事がある
・オーバートレーニング症候群は予防する事が最も重要
・スポーツを楽しめる環境づくり、それは予防にとってもっとも重要
オーバートレーニング症候群とは以上のような特徴をもつ競技スポーツ現場で起こる問題です。
競技スポーツはやはり
練習量の質と量の差が結果に繋がります。誰よりも練習したからこそ見れる世界があります。
しかし、オーバートレーニング症候群になってしまっては、よいプレーをすることもできなくなり、積み重ねてきた事が無駄になる可能性があることを理解しましょう。
指導者・保護者は「楽しみながらスポーツに一生懸命取り組める環境」を作る事ができればいいですね。
私はまだまだ未熟ですが、この記事を書きながらスポーツの環境をよりよいものに変えていけるよう頑張ろう!そう改めて思い直しました。
参考情報
① オーバートレーニング症候群 白山正人 体力科学(1996)
② 特集 オーバートレーニング症候群,Training Journal 239 : 12-28, 1999
③
長崎内科クリニック ドクターズフィットネス
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/overuse-missuse
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/osgoodsapo
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