先天性心室中隔欠損とスポーツ・運動制限 指導者が注意点まとめ

子供のスポーツを指導していく上で重要なことは子供を怪我や病気などから守ること このブログではスポーツ障害、熱中症、心臓震盪などスポーツで起こりうる怪我や病気についていくつか取り上げてきました。 今回は「先天性心室中隔欠損」について、スポーツ指導者が注意しておくべき点などをまとめます。 ※運動制限の判断は定期的な検査を受診し、医師の判断に従ってください  

先天性心室中隔欠損とは?

心室中隔欠損症とは、乳幼児の先天性心臓疾患のおよそ60%が心室中隔欠損症と言われている、先天性の心臓の病気の中で割りとよく見られる疾患です。 下の図のように左心室と右心室の間を仕切る壁(中隔)に穴(欠損孔)があるのが先天性心室中隔欠損です。 先天性心室中隔欠損 スポーツ 運動制限 中隔の欠損孔の位置によって大きく4つに分類されます(Kirklinの分類)。
  • 1型(流出路欠損):大動脈弁に近い部分に穴がある
  • 2型(膜様部欠損):最も多い、自然閉鎖の傾向が強い
  • 3型(流入部欠損):頻度は最少でダウン症候群に合併する頻度の高い
  • 4型(筋性部欠損):頻度は少なく自然閉鎖例が多い
穴の位置が上から頭から足に近い部分に分かれ、症状、治療などが異なります。   心臓を仕切る壁に穴があると左心室から右心室へ血液が流れだし、肺へ流れ出す血液の量が増えて量によっては肺の血圧が高くなる(肺高血圧)ことがあり、心臓への負担が大きくなって心臓の動きが悪くなる心不全になる可能性があります。   心臓の壁に空いた穴が大きくかったり、大事な欠陥の近くで穴が開いている場合には手術をして治療する間合いもあります。 しかし、1000人に3人の割合で起こると言われている心室中隔欠損ですが、うち約半数は生後1年以内に自然閉鎖することが知られています。 心室中隔欠損があっても欠損孔が小さい場合、症状は無症状が多く、運動制限もなく普通に生活を送っている方も多い心臓の病気です。    

先天性心室中隔欠損と運動の制限

先天性心室中隔欠損の子供の日常生活、特に学校での生活・運動(体育・部活動)の参加については心臓の病気に関するガイドラインで一定の基準が定められています。   学校生活管理指導表では教科体育に掲げられている全運動種目を取り上げ,その種目への取り組み方によって強度を分類しています。 指導区分は以下の5ランクに相当する A:在宅医療・入院が必要 B:登校はできるが,運動は不可 C:「同年齢の平均的児童生徒にとっての軽い運動」 には参加可 D:「同年齢の平均的児童生徒にとっての中等度の 運動」も参加可 E:「同年齢の平均的児童生徒にとっての強い運動」 も参加可   医師がそのこの状態に応じて運動制限の範囲を決定し、クラブ活動,運動や学校行事への参加の可否,日常 生活や社会活動における指導区分も運動強度の定義と指導区分の基本に沿って、学校生活を送ることが可能です。 各運動の強度は「心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運 動許容条件に関するガイドライン」に記されています。   運動部での部活動など競技スポーツは多くの場合区分Eに相当します。 運動は常に同じ環境で行われるものではなく、一緒にスポーツをする仲間、相手選手、外気温など様々な環境で行われます、特に競技スポーツは負荷をしっかりとかけたトレーニングを積んでいくことでパフォーマンスを高めていくことを目指します。 ガイドラインの運動だから大丈夫ではなく、子供の状態を確認しながら安全に進める必要があります。 また、部活動など競技スポーツへの参加が難しい場合でも、子供の興味などを考慮して好きなスポーツに関わることを目的に、許容されている範囲での運動参加、マネージャー活動などで関われる環境を作ることも重要です。  

運動部・クラブ活動可(区分E)に該当する指針

運動部への参加はガイドラインによって以下のような指針が設けられています。 運動部への参加はこれらの指針に加え子供の状況に応じてかかりつけ医・専門医などが判断し認められます。
1治療前の先天性心疾患
1 心室中隔欠損症:肺高血圧のないもの . 
2 心房中隔欠損症:肺高血圧のないもの . 
3 動脈管開存症:肺高血圧のないもの .
4 大動脈弁狭窄症:無症状で,軽症のもの .
5 大動脈二尖弁4, 5):大動脈基部や上行大動脈の拡張 が軽度でかつ大動脈弁狭窄・大動脈弁閉鎖不全が ないか,軽症のもの . 
6 大動脈弁閉鎖不全症:無症状で正常左室容量・正 常左室収縮能で軽症のもの .
7 肺動脈弁狭窄症:軽症のもの . 
8 僧帽弁閉鎖不全症:左房や左室の明らかな拡大が ない軽症のもの .
2.治療後の先天性心疾患
1  心室中隔欠損症:肺高血圧 および不整脈のないもの.
2  心房中隔欠損症:肺高血圧 および不整脈のないもの.
3  動脈管開存症:肺高血圧 のないもの.問題 なく治癒している場合は管理不要でもよい.
4  肺動脈弁狭窄症:軽症に相当し肺動脈弁逆流が多 くないもの .

出典:先天性心疾患の学校生活 管理指導指針ガイドライン(2012年改訂版) 

  スポーツの指導者が関わる子供は、医師が競技スポーツへの参加を認めた子供です。 つまり、区分E:「同年齢の平均的児童生徒にとっての強い運動」 も参加も可能です。 では、特に注意することなく運動を実施させてもよいのでしょうか??  

先天性心室中隔欠損で注意すべきこと

区分E:強い運動も可と医師によって判断され、スポーツに参加する場合は基本的に他の子供と同様にスポーツに参加できます。 しかし、競技を続けていく上で心室中隔欠損に伴う合併症などにより、以前と同じ運動でも息切れが酷くなるなどの症状がみられる可能性がある。 その為、指導者は選手の状況に注意をしながら観察を続ける必要がある。 過干渉になり過ぎるのは良くないですが、選手と指導者とのコミュニケーションがとりやすい環境を作っておくこともが事故などを防ぐ上で重要な要素になります。   さらに、心室中隔欠損の子供で注意しなければならないことに 「感染性心内膜炎の予防」があります。

感染性心内膜炎とは?

感染性心内膜炎とは血液中に細菌が侵入して心臓に付着、増殖して感染巣を形成する病気です。 通常、傷口などから血液に菌が入っても、その血液は一度肺を通って肺のフィルターで綺麗にされるのですが、心室中隔欠損で心臓に小さな穴がある場合はその菌が血の流れに乗って穴から抜けていくことがあります。 その菌が心臓の大事な弁や太い血管に付着して病巣を作ると感染性心内膜炎を引き起こす危険があります。

感染性心内膜炎の症状

発熱は感染性心内膜炎患者の9割に起こる症状ですが、特徴的な初期症状はないので、多くの患者さんは風邪と勘違いすることがあります。 そのため抗生剤を内服して一時的に症状は改善しますが、抗生剤を中止すると再び発熱するといったことを繰り返します。 しばらくすると、菌による心臓構造の破壊による心不全症状(息切れ、呼吸困難、むくみなど)が現れたり、酷い場合には感染巣が血流に乗って全身のどこかの血管に詰まって起こるさマヒ、意識障害などさまざまな症状が起こります。  

感染性心内膜炎の原因

血液中に細菌が侵入する原因としては、抜歯などの歯科処置、出血を伴う大きな怪我、内視鏡などによる細胞診、婦人科処置など出血を伴う処置などがあげられます。   スポーツでは擦り傷などはどうしてもよく起こります、擦り傷程度の傷なら流水でしっかりと洗い流して、傷口を塞げば問題ありません。 しかし、選手同士の衝突などでクチの中を怪我して大量にクチの中に出血などがある場合は、抗生剤を内服するなどの対応が必要となる場合があるので注意が必要です。   傷がある時は素早く清潔にして傷口を塞いでからプレーする、出血をしたままのプレー続行は禁止、特にクチの中の傷、大量の出血はその日のプレーを避けて、かかりつけの医師を受診して、感染性心内膜炎の予防をしっかりと行う必要があります。     以上、先天性心室中隔欠損とスポーツ・運動制限についてまとめてきました。 ・先天性心室中隔欠損は小さな穴で症状がない場合、医師が認めれば競技スポーツも可能 ・競技スポーツへ参加が難しいと判断された場合でも、スポーツへの関わり方を工夫して参加できる環境を作ることも重要 ・スポーツ参加の際には、大量の出血を伴う怪我(特に口腔内)では感染性心内膜炎の予防が重要   など、先天性心室中隔欠損での注意点がいくつかありましたが、最も重要なのことは医師‐保護者・子供‐指導者の連携で、お互いがコミュニケーションを取りやすい環境が整っていることが、感染性心内膜炎など重大な合併症を予防するためには必要だと考えています。  

参考情報

心疾患患者の学校,職域,スポーツにおける運 動許容条件に関するガイドライン小児および成人先天性心疾患における感染性心内膜炎の 予防,治療に関する全国調査―第 2 報―先天性心疾患の学校生活 管理指導指針ガイドライン(2012年改訂版)       ]]>

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