指導者、保護者にとって「子供たちの疲労をできるだけ早く回復させてあげたい」「良いコンディションで次の試合につなげたい」そんな気持ちが必ずあると思います。
コンディションを整えるその方法は様々、ストレッチ?体操?マッサージ?食事の工夫?よい睡眠?
いろんな方法を試されていると思いますが、疲労回復・コンディショニングは練習や試合が終わった直後から意識する事が重要です。
練習・試合の後の行動を振り返ってみる
練習のあと、試合のあとは何をしていますか?
子供達を集めて「お説教Time」でしょうか?
試合の振り返りは
非常に重要です。
良かった所、改善点を
子供たちの頭で理解できるように整理して、簡潔に伝えて次のトレーニングに生かしていく為には必要だと思います。
しかし、試合が終わった直後から選手たちのリカバリーは始まっています。
場所、時間の関係でどうしても
軽視されがちな「クールダウン」ですが
試合直後の子供たちの心と体の状況を理解して、クールダウンの必要性について考えてみましょう!
筋肉のクールダウン
サッカーはボールを蹴るスポーツです。
全身の筋肉を使いますが、やはり足の筋肉の負担は大きいです。
蹴り足の付け根の筋肉(腸腰筋)太ももの裏(ハムストリングス)、軸足の太ももの前(大腿四頭筋)、ふくらはぎ(下腿三頭筋)などは何度も繰り返し力を使います。
繰り返し運動した筋肉には、局所的に疲労が蓄積します。
運動直後の筋肉はどう変わるのか?
運動後の腕の筋肉(上腕二頭筋)の大きさ、硬さ、痛みを調査した研究では
筋肉の厚み、太さは運動直後から10分ぐらいが1番大きくなり、その後20分ぐらいで急速に運動前に近い大きさまで戻り、1~2日かけて元に戻ります。
なぜ大きさが変わるのか?
よく使う筋肉に血液が多く流れ、毛細血管を通って筋肉の隅々まで血が運ばれます。
血液が豊富になった筋肉は、細胞の1つ1つが水(細胞液)で満たされパンパンになるから1次的に大きく太くなるのです。
その時、同時に筋肉には疲労物質である
乳酸が溜まります。
この乳酸をできるだけ速やかに、分散させる、消費することが疲労回復のPointです。
筋肉痛の変化
激しい運動をすると、翌日、翌々日に襲ってくる筋肉痛(遅発性筋肉痛)。
筋肉痛の原因は、筋肉や神経に小さな傷がつく、炎症が起こるなど諸説ありますが、まだ明確な理由は見つかっていません。
研究では筋肉痛は運動後1~2日でピークを迎え、筋肉痛のある1~2日間は最大筋力が3~5%低下するそうです。
3~5%の低下、100㎏のダンベルを持ち上げれる人が95㎏しか上げれなくなる。
微妙な変化かもしれませんが、競技の中では
マイナス3~5%のパフォーマンスが繰り返されると勝敗を左右する事もあります。
できるだけこの筋疲労、筋肉痛から早く解放される事を考えなければいけません。
参考:上腕筋群における局所運動後の骨格筋の硬化と筋肉痛との関係 鈴木 正寛 理学療法科学 28(3): 389–393, 2013
筋疲労、筋肉痛の予防・回復に有効な方法は?
筋肉の疲労を回復するのに有効な方法は「軽い運動をする」ことだと言われています。
ストレッチも有効だという研究もあるのですが、効果がないという報告もあり白黒はっきりしません。
※柔軟性を確保する為には効果があります
軽く運動をする事は効果的な理由は、全身の筋肉を動かすことで疲労の原因物質である、乳酸を筋肉から取り除くからだと言われています。
「軽い運動」とは、曖昧な表現ですがおよそ全力の30%~40%。
「きつい」と感じない程度の運動を10分程度行うのが、筋肉の疲労を回復させるのには有効だと言われています。
筋肉を使えば疲労する≒筋肉を動かす事で疲労が取れる
矛盾しているように思いますが、疲労物質である乳酸は筋肉を動かす事で、一か所に集まっているものが分散し、消費されやすくなります。
実際の現場でのクールダウンは、軽いジョギングが一番簡単な方法だと思います。
試合の後に指導者と一緒に話をしながら、ゆっくり走れたらいいですよね。
心臓のクールダウン
大人のDataですが、サッカーの試合中、心臓は1分間に150~180回も動きます。
安静にしている大人の心拍数が70程度(小学生70-110回)なので、安静時の2倍以上も心臓は早く動く事になります。
サッカーはマラソンなどの常に走る競技とは違い、短い距離のダッシュを繰り返し、歩いている時もあります。
歩いている時があっても、心拍数は大きく下がらず試合中はつねに150回~180回/分を維持します。
ピッチの広さ、プレーヤーの人数でも多少の違いはありますが、8対8のミニゲームでも心拍数は150-180回/分と同じように上昇します。
心拍数が戻るまでに必要な時間は?
運動の後に心拍数が戻るまでに必要な時間は、運動が激しいほど長い時間が必要です。
心拍数が140回/分を超えるような強さの運動では、
心拍数が戻るまでにおよそ20-30分の時間が必要です。
心臓は血液に乗せて、体の中に酸素や栄養を運ぶ為に動いています。
運動によってたくさんの酸素を必要とする場合、心臓は強く、早く動いて多くの血液を体中に供給します。
その合図を出すのが、交感神経とよばれる神経です。逆に心臓の動きをゆっくりにするサインを出すのが副交感神経(迷走神経)と呼ばれる神経です。
簡単に言うと興奮の交感神経、リラックスの副交感神経が体のONとOFFを調整しています。
激しい運動の最中は筋肉に多くの酸素が必要です。
心臓を早く動かす為に興奮の交感神経を高ぶらせ、リラックスの副交感神経を抑えています。
息切れが止まって、体は楽になっても心臓は早く打ち続けているのは、この神経のスイッチの切り替えに時間がかかるからです。
できるだけ早く心拍数を戻すには?
心拍数が100~120回/分の軽めの運動は、運動終了後にリラックスの副交感神経を活発にし、心拍数を速やかに下げる効果があります。
激しい運動の後に急に運動を止めるよりも、軽めの運動でクールダウンをすれば心拍数が穏やかに下がります。
試合や練習で興奮状態になった身体に、リラックスのスイッチを入れるやすくする事が疲労の回復には重要です。
心のクールダウン
競技の中で子供たちは、仲間や相手選手と競い合ってぶつかって闘っています、闘う気持ちは交感神経を高ぶらせます。
つまり、プレー中は常に興奮の交感神経が優位な状態なので、子供たちの心も疲労します。
できるだけ速やかに、スイッチを切り替える。
その為にも運動直後に厳しい指導は、子供たちへのストレスとなるのでできるだけ避けましょう。
疲労回復の為のリラックスのスイッチが入るのを邪魔しないように、振り返りは子供たちが理解しやすいように、簡潔な言葉で伝え、次のトレーニングに生かしましょう。
以上、クーリングダウンの必要性や効果について簡単にまとめました。
①筋疲労を改善するためには、軽めの全身運動が必要
②軽めの運動で、リラックスのスイッチを入れ心拍数を穏やかに戻す
③試合で興奮した子供たちの心のケアも考える
書きながら、私も充分に考えていなかったと反省しています。
片づけもあるし、会場の都合もあって、いつもできないかもしれません。
でも今までの行動を少し変えるだけで子供たちのコンディションは改善します。
試合の後は、「トレーニングシューズに履き替えて、ゆっくり走っておいで」と声をかける
※この間に指導者は冷静になる、できるなら一緒に走る
走って帰ってきたら、補食をしながらストレッチする。
そのタイミングで「さっきの試合なんだけどさ~」と振り返ってみる。
これぐらいならできそうじゃないですか?
子供たちが自分の体の管理について理解する為にも、
クールダウンついて考えて頂く機会になれば嬉しいです。
子供たちの怪我が少しでも減らせるように、チームに合わせた取り組みで環境を改善していきましょう!
リカバリーにはアイシング、栄養補給も重要です、筋肉痛を軽減するための食事の取り方などは改めて書こうと思います。
参考記事
●上腕筋群における局所運動後の骨格筋の硬化と筋肉痛との関係 鈴木 正寛 理学療法科学 28(3): 389–393, 2013
●運動負荷後のストレッチングが筋硬度に及ぼす影響 木村 篤史明治鍍灸医学 第40号 29-37 (2007)
●血中乳酸の消失をより促進する回復処方の検証
●一過性の運動中および運動後の自律神経系活動に及ぼす運動強度の影響 林 直亨 体力科学(1995)44,279~286
●筋疲労回復におけるストレッチングの効果 ―筋電図の周波数解析による検討 市橋則明 運動生理6(4):181-185,1991.
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/11plus
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/nyuuyoku
おすすめの本
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