スポーツの指導者、お子さんがスポーツに一生懸命に取り組んでいる保護者の方なら、心配なのはスポーツによって起こる怪我、スポーツ障害ではないでしょうか?
競技によってスポーツ障害も様々ですが、ここでは全般的なスポーツ障害についてまとめ、その予防として指導者・保護者にできる事を考えたいと思います。
スポーツ障害とは?
同じスポーツを続けることなどにより、体の一部に負担がかかって起こるのがスポーツ障害。
体の使い過ぎ(オーバーユース)、
間違った体の使い方(ミスユース)を原因とするもので、大人だけでなく、成長期の子供にもよく起こる障害です。
スポーツでの転倒や衝突などによって起こる捻挫などの怪我は「
スポーツ外傷」と呼ばれ、スポーツ障害とは区別されています。
成長期に起こりやすいスポーツ障害の種類
成長期に起こりやすいスポーツ障害として以下のようなスポーツ障害があげられます。
野球などボールを投げる種目に多い肘や肩の障害。
その他にも腰、
膝、
足首など大きな関節すべてにスポーツ障害が起こる可能性があります。
表の中には股関節がありませんが、サッカー選手の代表的なスポーツ障害に
鼠径部痛症候群と呼ばれるものがあり、股関節にもスポーツ障害が起こる可能性が充分にあります。
どの時期にどんなスポーツ障害になりやすい?
スポーツ障害の発生は競技種目によって大きく異なりますが、発育の時期と深い関係があります。
|
小学生 |
中学生 |
高校生 |
脊椎分離症 |
0.90% |
1.60% |
1.30% |
野球肘 |
13.3 |
6.5 |
1.5 |
肩 痛 |
5.6 |
0.7 |
3.6 |
膝 痛 |
3.3 |
5.1 |
5.1 |
オスグッド病 |
6.2 |
6.9 |
1.3 |
踵骨骨端症 |
5.4 |
0.9 |
0 |
足 痛 |
3.7 |
8.1 |
3.8 |
引用:思春期のスポーツ障害 高澤 晴夫 順天堂医学 Vol. 44 (1998-1999) No. 3 p. 249-253
少し古い情報ですが、この研究の結果では、脊椎分離症は中学生に、野球肘は小学生高学年に多く。
オスグッド病は小・中学生、踵骨骨端症(シーバー病)は小学生に多いという特徴がみられました。
競技に影響するような怪我をいつしたのか?
怪我(外傷)やスポーツ障害、完治してその後の競技生活に影響がなければよいのですが、
大きな怪我やスポーツ障害を悪化させてしまった場合は、その後の競技生活が制限される事もあります。
紹介するのはサッカーに限ったDataですが、競技生活に影響する怪我(外傷)、スポーツ障害をいつ受傷したのかを、大学生のサッカー選手148人から調査したDataがあります。
競技生活に影響する障害、外傷の受傷時期
|
小学校低学年 |
小学校高学年 |
中学生 |
高校生 |
障害、外傷の経験 |
14.2% |
18.6% |
24.8% |
49.6% |
引用:大学サッカー選手における現在の競技生活に支障をきたしている障害とその発生学年 内山秀一
この調査では、 なんらかの支障となっている障害、外傷の受傷時期は
中学で24.8%・高校で49.6%でした。
怪我(外傷)も含む調査なので、高校生になると体も大きいので、接触プレーで大きな怪我になってしまい競技に支障が残ることが多いのかもしれません。
受傷した体の場所は足首が最も多く、次いで膝、腰の順だったそうです。
スポーツ障害が起こる原因? 4つのM
事故や災害、スポーツ外傷やスポーツ障害を起こす原因として4つのMと呼ばれるものがあります。
「人間」(Man)「機械」(Machine)「媒体」(Media)「管理」(Management)
① 「人間」(Man)
個人の能力や精神状態、人間関係。
不注意(ど忘れ、考え事)、疲労、睡眠不足、チームワーク、プレッシャー、レギュラーに対する執着、コミュニケーション不足などが要因になる事もあります。
② 「機械」(Machine)
スポーツに使用する用具が選手に合っているか?
使用する機器のネジがゆるんでいるなどの不備があれば、スポーツ外傷・障害につながる事故の要因にもなります。
③ 「媒体」(Media)
人と機械を繋ぐもの。過密な練習日程、休憩時間の不足などの運動する環境の事を指します。
環境によって起こる、慢性疲労状態や燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)による競技意欲の低下などがスポーツ外傷、障害の要因にもなります。
④ 「管理」(Management)
安全管理のあり方。
選手の体調管理など、監督やコーチの指導法の不備。自分自身による体調管理、ケアの不足はスポーツ外傷、障害の要因にもなります。
スポーツ障害発生の原因
|
中学生 |
高校生 |
疲労 |
7.9% |
20.5% |
睡眠不足 |
2.1 |
1.7 |
不注意 |
24.4 |
21.2 |
急に練習を始めた |
9.5 |
11.4 |
練習のしすぎ |
14.5 |
16.9 |
難しい練習 |
3.5 |
3.2 |
天気が悪かった |
1.6 |
1.5 |
グラウンドや体育館が悪かった |
4.7 |
4.1 |
ルールを守らなかった |
0.8 |
0.7 |
用具が原因 |
2.2 |
1.9 |
不可抗力 |
6.1 |
16.1 |
分からない |
16.2 |
17.8 |
その他 |
12.7 |
13.7 |
無回答 |
19.2 |
2.2 |
引用:思春期のスポーツ障害 高澤 晴夫先生 順天堂医学 Vol. 44 (1998-1999) No. 3 p. 249-253
不可抗力もあり、すべて怪我を予防する事は困難です。
しかもスポーツで怪我をする理由は、先にあげた4Mのどれか1つが原因という訳ではありません。
- 精神的なプレッシャーを受けた状態で、用具の不備に気付けなかった。
- 「少しでも上手くなってレギュラーになりたい」その思いが強く、自主練習などでオーバーワークになっているのに、さらに練習を続けた。
- 結果を出さなければいけない思いが強く、指導者が怪我の管理をせずに選手を起用し続けた。
- 保護者の少しでも我が子を活躍させたいという強い思いが、子供の精神的なプレッシャーを生み、子供が疲労のサインを出せないような環境を作っていた。
「勝利にこだわる」ことも「レギュラーになりたい気持ち」もスポーツでは大切な事です。
スポーツの技術は当然、たくさん練習した方が身につきます。
ただそれが、選手の体と心の限界を超えスポーツが続けられなくなっては、頑張ってきた事がだいなしになってしまいます。
選手の表情、行動、運動環境のチェックなどでスポーツ障害を未然に防げるように注意していかなければいけません。
スポーツ障害の原因 使い過ぎと間違った使い方
スポーツ障害を予防する上で重要な事は
「使い過ぎ(オーバーユース)」「間違った使い方(ミスユース)」を防ぐ事です。
使い過ぎるとどうなるのか?
スポーツをすると、筋肉や腱、靭帯、骨にストレスがかかり微細な傷がつきます。
人間の体は優秀なのでその
傷を自分で修復する能力を持っています。
普通の生活やスポーツをするぐらいでは傷ついた場所は元に戻り、より強くなるので心配ありません。
しかし、同じ競技や同じ動きを何度も繰り返せば、一定の場所に負担がかかりその傷は大きくなり修復に時間がかかります。
休みなく練習を繰り返すと、
傷を修復する時間が間に合わず、さらに体を傷つけることになってしまいます。
こうして体の一部分に疲労が蓄積されて、スポーツ障害へと発展していきます。
使い過ぎを招くのは間違った使い方
間違った使い方ではないですが、片足を失って、片足と杖で歩く事が多い人は片足と腕に負担がかかり2次的な障害を招くことがあります。
同じように腕だけでボールを投げる、脚だけでボールを蹴ることは体の一部分に負担が集中して障害を招く原因になります。
例えば、
オスグッドシュラッター病などの膝の問題を抱える選手は、太ももの後ろの筋肉(ハムストリングス)が硬い選手が多い。
太ももの筋肉が硬くなれば、骨盤が後ろに傾いて股関節(屈曲)・足首(背底)の動きも悪くなる。
体の重心がずれて、それを支える為に膝への負担は大きくなる。
[gallery link="file" columns="2" size="full" ids="879,878"]
体のひねりを上手く使わずにボールを蹴ると、
鼠径部痛症候群のような股関節の痛みに繋がる事もあります。
出典:Sports medicine No157,2014,1 鼠径部症候群 治療の変還と展望を語る 仁賀 定雄先生
他にも股関節(伸展)が充分に動かない事によって起こる腰への負担、下半身と連動しない投球動作によっておこる肩や肘への負担など
何が原因で始まるのか?それは種目や環境、個人の能力によって異なります。
正しいフォームを学んでいない、どこかの筋肉の力が弱い、柔軟性がない、どこかに痛みがあったなど、それを補う為に全身の使い方が変化して負担が集中する
「間違った使い方」が「使い過ぎを」招く可能性があると言う事も理解しておかなければいけません。
成長速度と筋肉の柔軟性の関係
スポーツ障害を予防する上で重要な筋肉の柔軟性。
特に思春期に起こりやすい
オスグッドシュラッター病や
シーバー病などのスポーツ障害(骨端症)を予防するには柔軟性の確保は必須です。
成長期の子供は身長が大きく伸びる時期に、筋肉の柔軟性が低下する傾向があります。
身長成長曲線
中学生のサッカー選手を対象に身長の伸びと筋肉の柔軟性を調査した研究では
PhaseⅢ(身長の伸びが頂点を過ぎて下降に入る時期)で右の腸腰筋、右のハムストリングス、左の大腿四頭筋、左の下腿三頭筋の筋肉の柔軟性が他の時期の選手に比べて低下していたそうです。
出典:中学生サッカー選手における身長成長速度曲線と下肢筋柔軟性との関係 中澤 理恵先生
右利きの選手が多かったんだと思います。
軸足となる左足の体を支える太ももの前とふくらはぎの筋肉。
蹴り足の速いスイングを制御する為の筋肉の柔軟性が低下しています。
サッカー特有の結果かもしれませんが、身長が伸びる時期には筋肉が成長に追い付かず柔軟性が失われる可能性があることを頭に入れておく必要があります。
以上、スポーツ指導の現場で役に立つ素晴らしい研究を参考に、スポーツ障害についてまとめてきました。
スポーツ障害は
- 過密な日程などによって起こる、「使い過ぎ」が影響している。
- 体の「間違った使い方」は、体の一部に負担をかけ「使い過ぎ」引き起こし、スポーツ障害の原因になる
- 「使い過ぎ」を招くのは、レギュラーへの固執や結果を求めるプレッシャーなど精神的な面も大きく影響する。
- 成長期の子供は身長が大きく伸びる時期に、筋肉の柔軟性が低下する可能性がある事も考慮して充分な柔軟性の確保が重要
スポーツ障害はなってからの対応も重要ですが、なにより重要な事は
予防です。
その為には、指導者-保護者‐選手が連携してスポーツ障害を防げるように協力して管理しましょう。
指導者の役割は
「子供たちが、怪我(身体的・精神的)をしないように目標に導く事」
1人でも多くの子供たちが怪我なく、サッカーを続けられる事を心から願っています。
参考記事
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/osgood-schlatter
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/jones
http://kimamana.sakura.ne.jp/WP/kegaonaosu
関連書籍
]]>